筆界と所有権界
境界ADRとは
筆界特定制度とは
問題解決方法の比較
土地の境界について隣接者同士で合意が得られない場合は、まず土地境界の専門家である土地家屋調査士に調査を依頼して 境界についての客観的な意見を求めることになりますが、
それでも合意が得られない場合の問題解決手段として、「境界ADR(民間型境界紛争処理機関の調停)」 ,「筆界特定制度」という手法が最近になって誕生しました。
これらの手法は、境界問題が互いの話し合いで解決しない時に、従来は訴訟を起こすしかなかったようなケースにも用いることができ、訴訟よりも迅速かつ安価に問題を解決することを目標にしています。
土地の境界には、「筆界」と「所有権界」の2種類があります。このふたつを区別しておかないと後の説明ができないので、まず始めにこの2種類の境界の違いについて説明します。2種類の境界についてご存じの方は読み飛ばしてください。
不動産登記の基本的な考えによると、「土地は明治時代の地租改正事業などによって決められた1区画 (1筆)ごとに登記され、その後の分筆や合筆を経て今日に至るのであるが、
その境界(筆界)は公の資料によって定められた公法上の線であり、私人の取り決めや所有関係の変更(所有権界の変更)によって変更することはない」とされています。
具体的な例で説明しましょう。
30年前に10番の土地を上図の イ-ロ の線で10番1の畑と10番2の山林に分筆し、10番1をAさんが所有し10番2をBさんが所有するという登記がなされました。その後AさんはBさんの山林の一部を開墾して自分の畑にして長らく使用しています。
Aさんは上図のイ-ロ-ハ-ニで囲まれた部分は長く自分の畑として使っているので、この部分は時効で自分のものになったと主張しています。
さて、10番1と10番2の土地の筆界は現在イ-ロでしょうか ハ-ニでしょうか?
AさんとBさんが互いの土地の境界線をハ-ニとして合意しても、筆界はイ-ロです。なぜなら筆界(土地の公法上の境界線)は私人の取り決めによって変更することはできないからです。
また、 裁判所が「イ-ロ-ハ-ニで囲まれた部分は時効によってAさんが取得した」 という判決を下しても、筆界はイ-ロです。 なぜなら筆界は所有関係の変化によって移動するものではないからです。
ハ-ニを結ぶ線はAさんとBさんの所有権が及ぶ範囲を示した線 (所有権界)であり、10番1と10番2の筆界をハ-ニにするにはイ-ロ-ハ-ニで囲まれた部分を10番2から10番1へ合筆する登記が必要です。
たいていの土地では筆界と所有権界は一致していますが、境界問題があるときは、問題となっている境界が筆界を指すのか所有権界を指すのかを区別する必要があります。
もめ事があったときに裁判を起こすよりも、仲裁人を立てて当事者同士の話し合いで解決できれば、互いにしこりを残すことも少なくなりますし、費用や期間も少なくて済むでしょう。
裁判によらず紛争を解決するための手続を 「裁判外紛争解決手続」 英語でAlternative Dispute Resolution - ADR - といいます。
日本では昔から地域の顔役の人がもめ事の調停をすることが多くありますが、このような制度化されていない調停方法は一般にはADRと言いません。
裁判外での調停を制度化するには、仲裁人の中立性や適格性および調停のルールが必要です。このため2003年に「仲裁法」が制定され、 さらに2004年には「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」
(いわゆるADR法。実施は2007年4月から)が制定されました。これらの法律では民間の団体がADRを行う際のルールが定められています。
境界ADRでは、土地の筆界の専門家である土地家屋調査士と、法律の専門家である弁護士をメンバーとした民間型境界紛争処理機関が、境界問題を筆界・所有権界の両面からとらえて調停を目指します。 調停は紛争処理機関が用意する部屋に当事者が集まって行いますが、調停員が現地で双方の聞き取りを行うこともあります。資料調査や測量が必要な場合は紛争処理機関が指定した専門家がこれを行います。
当事者同士の協議によって調停を進めるので、調停にどうしても参加してくれない当事者がいる場合は不成立となります。調停が成立した場合、調停にかかる費用は両側の土地の所有者両方で負担しますが、 その割合は協議で決めます。費用・期間ともに訴訟よりも少なくて済みます。
民間型境界紛争処理機関は現在各地に誕生して活動を開始しており、大阪では 境界問題センターおおさか が開設されています。
民間型境界紛争処理機関は、まだ設置されていない県があります。どこのADR機関を利用すればよいかは、お近くの土地家屋調査士もしくは土地家屋調査士会にお問い合わせ下さい。
筆界特定制度は土地所有者等の申請により、土地の筆界を筆界調査委員(土地家屋調査士のうち認定を受けた者)の意見を踏まえて登記所の筆界特定登記官が特定する制度で、 不動産登記法に新しく定められました。(2006年1月より施行 不登法123-150条)
筆界特定制度はADRの一種でありますが、当事者の調停によって筆界を特定するものではなく、登記所所有の資料や現地の状況など各種の客観的資料をもとに筆界を特定します。
この制度で筆界が特定されると筆界特定書が作成され、土地の登記簿には筆界特定がされた旨の記録がされます。筆界特定書は登記所に保管され、手数料を払えば誰でも写しをもらうことができます。
また、所有権界についての特定は目的としません。もし所有権界のみの特定を目的として筆界特定の申請を行ったと判断された場合は料金を払い込んだ後でも申請が却下されます。(不登法132条)
申請から筆界特定までの期間はおおむね6ヶ月以内を目標としています。また費用も訴訟より少なくて済みます。
費用は申請人が負担します(不登法146条)。もし境界線の片側の土地の所有者だけで申請する場合は、その人が費用を全て負担します。
申請は土地家屋調査士、弁護士、司法書士(申請者が受ける利益が140万円以下の場合)が代理することができます。
この制度によって特定された筆界に不満がある時に、当事者が境界確定訴訟を起こすこともできます。筆界特定登記官が特定した筆界と裁判で確定した筆界が異なる場合は
判決のほうが効力を持ちます(不登法148条)。もっとも、筆界特定登記官は入手しうる限りの資料を基に筆界を特定しますし、この資料は裁判にも用いるので特定した筆界が
覆ることはほとんど無いでしょう。
1.当事者の話し合いによる解決
境界問題が起こった場合、土地家屋調査士の収集した資料をもとに当事者同士の話し合いで解決できればそれが最も良い方法です。
2.境界ADRによる解決
境界紛争がある時、土地家屋調査士は所有権界についての調停をすることが法律上できません。また、あいだに入った土地家屋調査士や弁護士が片方の当事者に雇われている場合は
もう一方の当事者が調査士や弁護士に信頼を持てないことがあります。その点、境界ADRの調停委員は筆界・所有権界の両面から調停を行えますし、
調停費用は両方の当事者が払うので、仲裁人との間に信頼関係を築きやすいと言うメリットがあります。
境界ADRで問題を解決するには、まず当事者全員が調停のテーブルにつく必要がありますが、当事者全員に境界問題を解決したいという意志があるならば優れた解決方法となり得ます。
3.筆界特定制度による解決
境界紛争当事者のひとりが話し合いに応じてくれない場合でも、筆界特定制度の申請は一方の土地の所有者等だけですることができます。
また、隣地の土地所有者が測量のための立ち入りを拒否している時でも、筆界調査委員の立ち入り権限が認められています(不登法137条)。境界問題に協力的でない
相手がいるときは有力な解決方法となり得ます。
この制度で特定された筆界をもとに分筆などの登記を申請することができるので、隣地が筆界確定に協力してくれないために分筆ができない場合(よくあります)の問題解決にも
使えるでしょう。
ただし、所有権界を定めるものではないので、土地の一部分の帰属を巡る争いには向かないこともあります。
なお、筆界特定書は相続税の物納申請に必要となる"境界確認書"として使用することはできません。
4.訴訟による解決
筆界を確定するための訴訟を境界確定訴訟、所有権界を確定するための訴訟を所有権確認訴訟といいます。いずれにしても訴訟によって判決が出るまでに 通常2年程度の時間と100万円を超える費用がかかります。また、訴訟で勝ったとしても隣人との間にしこりが残ることも多いでしょう。
ただし、境界確定訴訟の判決がなされれば筆界はそこで確定します。また、所有権確認訴訟で所有権界と筆界に差違があるという判決が出れば、判決に従った所有権移転登記を
申請することができます。
最近になって利用できるようになった、境界ADRと筆界特定制度のどちらが良いかはケースによって変わりますが、どちらも有力な境界問題解決方法となり得ます。
これまで解決できなかった境界問題を抱えておられる方は検討してはいかがでしょうか?
|